今では住宅ギョーカイ内ですっかり有名になった次のような惹句からはじまる、ハードボイルドな「家づくり本」である。
大工さんはそれを「家」といい
ハウスメーカーはそれを「商品」という
建築家はそれを「作品」と呼ぶが
不動産屋の店頭では「物件」となりはてる。
文庫本の底本となったのがハードカバー版。文庫版は66本のショート・エッセイのほかに、書き下ろしの【基礎講座】を加えた増補決定版。
下のような実用情報で構成されており、必要なときに、必要な個所を引けば、「辞書」のように使えるつくりとなっている。
ビギナーのための資料編
【本気で家を建てるための基礎講座】
1 リラクゼーション講座
家づくりは「道楽」である
2 理論武装講座
世の中にはいったいどんな住宅があるのか?
〈工法/構造/間取り/動線〉
〈バリアフリーハウス/シックハウス〉
3 現場社交講座
あなたが出会う「業者」たちの素顔
4 自己責任講座
あなたがすることになる「施主の仕事」
5 裏ワザ講座
家づくりはハードボイルドに!
〈資金計画/業者選び/契約方法〉
|
巻末の「解説」は、小林秀雄賞受賞直後の斎藤美奈子さんが担当してくれた。
「この本がおもしろいのは」と彼女は書く。「家づくりからみた戦後社会学(思索)であると同時に、家づくりを経験した人でないとわからない実践的な書(施策)にもなっている点だ」
「あるいは、実用書みたいな顔をして(施策)、じつは挑発的な思想(思索)の書なのだというべきなのだろうか。タイトルに冠せられた『本気で』の三文字を甘く見てはいけない」
その三文字を甘く見なかったにちがいない。このエッセイ集が出版されたあと、「うちで売る住宅を“商品”と呼ぶのはやめました」といってきた大手ハウスメーカーがあったのには笑った。
村瀬 春樹