〈ぼくは「主婦」なのだ。男の「主婦」である〉という書き出しではじまるエッセイ集。〈ジョン・レノンあるいはマイク・マグレディ風にいえば「ハウスハズバンド(主夫)」である〉
だれが言い出したか知らないが(誓っていうが、ぼくじゃない)、日本の「女性学の古典」「男性学のバイブル」、あるいは「女性行政担当者の必読文献」の名著といわれているが、この本ほど不幸な運命(さだめ)を背負った本はないと思う。なぜかというと……
1984年、初版を出した直後から大きな反響があり、新聞、雑誌、テレビにラジオ、書評や著者インタビューは合計三十数回を数えた。「すごいじゃん! これでビルが建つぞ」と晶文社の編集担当・村上鏡子さんと喜びを分かち合ったのだが、反響のわりには売上が伸びない。なぜなんだろう……? と小首かしげて薮の中。
ほどなくナゾは解明された。ある日、都内の公民館で「主夫もの」の講演会が終わると、数人の中年女性が演壇に駆け寄ってきた。そのうちの1人が手に高々とこの『怪傑! ハウスハズバンド』を掲げているではないか。
「私たち、あなたの大ファンなんです」とその女性はいった。「私たちのグループ全員が、この本を読んでいるんですよ!」
そりゃ、ありがたい! ぼくは聞いてみた。
「皆さんの勉強会って、何人いらっしゃるんですか?」
「総勢18人です!」
やった! 18冊のお買い上げ!
「そうなんです!」と彼女は手柄顔にこういった。「1人が読み終わると、次の人に回して……ほら、この本、もうこんなにボロボロ!」
なんと、1冊の本の背後に18人の読者! そりゃそーだろ、これじゃ売上が伸びないはずである。
帰りに寄るレストランで2000円のステーキ・ランチを食べる余裕があるのに、なぜ、1300円の本が買えないの? 気に入った本なら回し読みしないで、一家に一冊、座右の書にしてやってね。トホホ。
世評と読者数のわりには売上数が伸びなかったこの不幸せな本は、しかし、本屋さんの店頭で20年間のロングセラーをつづけ、いまもネット販売で手に入る。
書いた本人が最も愛着をもっている1冊である。全国の図書館に置いてあるので、目に入ったら、ぜひ、ご一読あれ。
村瀬 春樹