08-ブラジャー/男と女の胸算用 (1)

 

[1]16世紀=1530年代、英国の鉄製コルセット。鎧のように片側に蝶番(ちょうつがい)があり、前後に引き開けて装着する。


[2] 1890年代、英国のアンダーウェア・メーカーCB社のコルセット。ウエストがきつく締め上げられて極端にくびれたシルエットになる。

「文化の縛り」としてのコルセット

ブラジャーは、かつて、コルセット(胴着)の一部分だった。ナチス・ドイツに併合されたオーストリアのように、コルセットに隷属させられた胸当てだった。別の言い方でいえば、コルセットとは、女性の胴体全体を締め付ける巨大なブラジャーだった。

 コルセットは、女性の身体の保護や保温のためというより、体型の矯正や成形のためにつくられた。このため、生地には厚手のリネン(linen= 亜麻布)が用いられ、強度補強用の芯として木骨(もっこつ)、皮革片、鋼鉄線、鯨骨(げいこつ=実際には鯨のヒゲ)などが縫い込まれた。

 それは、男性社会の強い要請からつくられた。

 19世紀のヨーロッパの家父長たちは、自分の妻や娘の胸、腰、肌=つまり、女性としての性的記号をよその男たちの視線にさらすのを恐れていたのだ──自分が、隙あらば、よその家の女性の肌を見たいと思っていたとしても、である。

 女性たちの胴は、呼吸が困難になるほど締め上げられ、事実、血行不良や酸欠になって卒倒する女性もいた。女性の身体にとって、コルセットは「物理的な縛り」であると同時に、目に見えない道徳や社会通念という「文化の縛り」でもあった。

 ヒップや下肢もまた、クリノリン(crinoline)と呼ばれる釣り鐘状の鋼鉄線フープが入ったスカートで覆われ、うなじは長い髪と複雑な髪飾りで隠されていた。そのように、当時のファッションは女性たちの素肌を徹底的に隠す工夫を競うものだった。

 こんなエピソードも残されている。当時の女性は〈一生の間で自分の肉体を見せる人は、たった三人しかいないとされていた。つまり、産婆と夫と屍体を洗う人と、これだけである〉。* a

 この思想とファッションは、営々と、20世紀初頭まで続くことになる。

 1900年、フランスのマダム・ガッシュ・サロートが画期的なコルセットを創案した。胸部を圧迫する上部の張り骨を乳房の下まで引き下げ、コル セットを小さくしたのである。このため、部分的に解放された女性の乳房はコルセットの上端から前へ浮き出し、バストのシルエットが大きく豊かに誇張される ことになった。

 この「前方に胸・後方に腰」が張り出すS型コルセットは当時の淑女たちのあいだで大人気を呼び──つまり、紳士たちの間で大人気を呼び、1904~05年にかけて流行の絶頂期を迎える。

 このように、時代とともにコルセットはしだいに小型化の道をたどることになるのだが、決定的な契機となったのが「戦争」だった。
 第一次世界大戦(1914~18)である。

[3] 英国BBC放送『Elizabeth R』出演のために、16世紀(1580年代)の鉄線入りリネン製コルセットとbum roll(綿入れ尻パッド)を身に着ける女優のグレンダ・ジャクソン。彼女の胸は、胸部にシワがよるほどきつくコルセットで締め付けられている。
[4] 1887年、パリのファッション画に描かれたビクトリア朝ドレス。コルセットとクリノリンをつけた女性がドレスアップするとこのようになる。