● 男は戦場、女は工場、コルセットは小型化へ
女性の身体がコルセットから解放されることになったのは、これもまた男性社会の都合からだった。
20世紀になっても、「男は仕事/女は家庭」、女性たちは性別による役割分業によって家庭の中に閉じ込められていた。
しかし、第一次世界大戦がはじまるや、彼女たちは戦時下の工場労働に続々と召集されることになった。 写真[5]は、その当時、イギリス政府が作成したポスターである。
ロングヘアーを作業帽でまとめた若い女性が、軍需工場の制服の上からスモックを羽織ろうとしている。背後では、同じ制服姿の女性たちが作業をはじめており、その足下の床には製造された徹甲弾が並べられている。
女性たちの制服の胸元は詰め襟で肌の露出度が最小限に抑えられ、スカートは裾がブーツに隠されたくるぶしまで届く長さだ。
そのように、当時の女性の作業服は、リボンやフリルで飾られてはいないものの、あいかわらずのヴィクトリアン・スタイルだった。
画面左手には、銃をかついだ男性が「行ってきます。後はよろしく!」と手を振って戦場へ出かけていく。キャッチコピーには〈この女性たちは彼女 の義務を果たしている〉〈弾薬・軍需品製造の訓練を受けろ!〉。「男は戦場/女は工場」── 男性社会は、新たな性別役割分業を発明したのである。
[6]は同じ時期、英国ノッティンガムの工場の作業風景だ。写真の解説にはこうある。
この時代、全英で約90万人にのぼる女性たち(そのほとんどが労働者階級出身だった)が大規模な軍需工場で砲弾や銃器製造の任務に就かされた。
しかし、多くの工場がまだ機械化されておらず、後年、女性のひとりはこう語っている。
〈爆薬を砲弾の中に詰めるのは、鉄のハンドルと木槌を使う手作業で、ブリキ缶に容れた火薬を少量ずつ、神経を使いながらくり返し注入するたいへんなハードワークだった〉* b
そんな軍需工場の屋根の下で、コルセットはまだ生き残っていた。
だが、身動きならぬ旧来のコルセットで身体を締め上げていては仕事にならない。この時期に、より小型で、軽く、足腰の屈伸が効く、木綿製コル セットが開発されていく。女性たちは、ロングスカートやスカートズボンの下にこの新型の簡易コルセットを付けて軍需工場へ通っていたのである。
こうして、20世紀の女性たちの胸はブラの登場を待つことになる。