【新・ジュラ紀の道具たち】ストリート・チルドレンの工芸品 (Page8)

● セネガル(アフリカ)の場合/1990年代~now

 そして……。

 【ジュラ紀】がやってくるのは空爆や集中砲火を受けた地域だけではなかった。人が無一物になるのは軍事的侵略の結果だけではない。人は、容易に、経済的侵略によってカネ、物資、生産手段を奪われ、無一物にされてしまう。

 巨大な多国籍企業による「世界支配戦略(グローバリズム)」──。

 それを肌で感じたのは、2002年、あるアフリカ物産展で奇妙な小型トランクを目にしたときである。ぼくは、この新植民地主義による特異な道具の発生期を【道具の新・ジュラ紀】と名づけようと思う。

● 道具の真相/番外篇 「セネガルのトランク」

セネガルのトランク。ビールや清涼飲料水の空き缶などの廃棄物でつくられている。
赤瀬川原平
『オブジェを持った無産者』(1970年/現代思潮社)より。

 このトランクを初めて目にしたとき、ぼくが思い出したのは、赤瀬川原平が「模型千円札」で梱包したトランクのオブジェだった。日本の「梱包芸術」の代表作のひとつである(右の写真=1963年作品。後の「千円札裁判」で警視庁に押収された)。

 梱包芸術の面白さは、モノを包み隠すことによって、むしろそのモノの本質を露(あらわ)にしてしまうことだ。まるで、性器を包み隠そうとするポルノ写真のモザイクが、世の中には性器そのものより遥かに猥褻なものがあることをあからさまに見せてくれるように。赤瀬川が「通貨」で包んだその作品は、現代の資本主義のワイセツさを静かに暴露していた。

 さて、カネ、物資、生産手段を持たない無一物の人間はどう生きるのか? ロビンソン・クルーソーは難破した船の帆布でテントを張り、野生の山羊の脂(あぶら)でランプの灯油をつくった。

 このトランクはアフリカ産。旧フランス領セネガルの無一物者=ストリート・チルドレンが、路傍に捨てられたコーラやビールの空き缶を拾い集めてつくったパッチワークである。彼らは、生き延びるために、この空き缶細工をスーベニール(観光土産品)として売っている。

 トランクに使われたアルミ缶の製造主たちは、ざっと次のとおりである。

 コカコーラ、ペプシコ、バドワイザー(アメリカ)、ギネス(イギリス)、ハイネケン、3 HORSES BEER(オランダ)、CASTELBEER(フランス)、KAS(スペイン)──。 ほらまた、アフリカに、植民地支配の宗主国が勢ぞろいだ。

 うそ明るく輝くアルミ缶で梱包された旅行用カバン=トランク。赤瀬川とセネガルの子どもたちが梱包の台にカバンを選んだのは絶妙の選択である。

 「革」へんに「包」むと書いて「鞄(カバン)」。

 包み隠すべき対象(オブジェ)としてこれほど最適なものはない。そして、このトランクがどんな本質を露(あらわ)にしているかはいうまでもないだろう。

 セネガルは1960年にフランスから独立した後、いまもなお飢餓に直面する最貧国のひとつ。都市部の6~18歳までの子どもたちの、1000人のうち13人が路上で暮らしているという。

セネガルの首都ダカールのバザールでは、子どもたちがつくったアルミ缶玩具が売られている。写真/3点とも、Leslie Schuffner

トランクの内張りはディズニー漫画だ。
コカコーラ缶の灰皿。
コカコーラ缶のスクーター。
ハイネケン缶のバギー。
素材と作品。
素材と作品。
ペンキ彩色のバス。
アルミ缶を切り貼りしたコラージュ絵画。銀色に輝く額縁にはアルミ缶の裏地が使われている。強烈な原色で構成されたアフリカン・ポップアートといえる作品だ。









年表:異形の道具たちが語る戦争と平和の世界史
* 下の表は、筆者が道具の実物ないし資料を確認した例にかぎる。道具史における【白亜紀とジュラ紀の法則】にしたがえば、未確認のケースはこれ以外にも数多くあるはずだ。


 時   期
 道 具 の 特 異 紀
   で  き  ご  と
1914~18
THE WORLD WAR Ⅰ (第1次世界大戦)
1914~18
英国の【白亜紀】
節食キャンペーン。マーガリンが食卓に戦後賠償。経済的廃墟。陶貨発生
1918~20's
ドイツの【ジュラ紀/白亜紀】
1939~45
THE WORLD WAR Ⅱ (第2次世界大戦)
1938~45
日本の【白亜紀】
ぜいたくは敵だ! 金属品供出。セトモノの代用品が大量発生
1939~45
英国の【白亜紀】
HOME FRONT。金属品供出。Utility Crockery=実用食器ほか各種の代用品発生。代用肉も
1941~
リビアの【ジュラ紀】
トブルクのナベ・ウクレレ。ジュラルミン勲章=RATS OF TOBRUK
1944
タイの【ジュラ紀】
日本軍軍用機を梵鐘などに転用
1945~50's
沖縄の【ジュラ紀】
カンカラ三線。コカコーラのビン底グラス。日本軍軍用機から「銀翼のヤカン」ほか多彩なジュラルミン道具発生。ナービーヤー(ナベ製造工場)隆盛
1945~50's
日本本土の【ジュラ紀】
軍用機用ジュラルミンの転用。東京駅大ドームの構造材、三菱重工製パン焼きナベ、浦和のヤカン
1949~58~
台湾の【ジュラ紀】
砲弾包丁が金門島の特産品に
1960~1970's
ベトナム戦争
ベトナムの【ジュラ紀】
撃墜した米軍機のジュラルミンを転用して道具が多種多様に発生。軍用タイヤからホー・チ・ミン・サンダルも
1990's~
セネガルの【新・ジュラ紀】
路上の子どもたちのアルミ缶細工
2001~
アフガン戦争
アフガニスタンの【ジュラ紀】
いま、米国が出兵する先々に典型的な【ジュラ紀】が訪れ、アフガニスタンやイラクの人々は、軍用機や兵器の残骸で日用品をつくりはじめている
2003~
イラク戦争
イラクの【ジュラ紀】

☆ 本編中の写真は、各キャプションに特に表記がないものはすべて Tabute Murase 撮影による。