07-バンドエイドの使い方

 

1 BAND-AID、レギュラータイプ。「片手で、素早く、簡単に!」が開発コンセプトだ


 英語でバンデージ(包帯)+エイド(助ける)=【バンドエイド】。
 ──アメリカのJ&J(ジョンソン&ジョンソン)社が製造する「滅菌ガーゼ付き救急絆創膏」である。

 時は1920年、J&J社の社員アール・E・ディクソン氏(28歳)は、新婚間もない妻のそそっかしさに頭を痛めていた。

 なにしろ、妻のジョセフイーヌときたら、包丁を使って料理をするたびに指を切ってしまい生傷の絶え間がないのである。愛妻家のディクソン氏は、 彼女が指をケガをするたびに、ヨードチンキを塗り、ガーゼを当て、包帯を巻いてやっていたのだが、自分が家にいないときにケガをしたらどうしよう? ひとりじゃ包帯が巻けないじゃないか……といつも悩んでいた。


2 ミスター・ディクソンの不器用な妻は包丁を握るたびに生傷が絶えなかった。

 
 そんなある日、ひらめいたのが「ガーゼ付き絆創膏」である。粘着性の強いテープの中央に清潔なガーゼを付着させた「お助け-包帯=BANDAGE-AID」。これなら、彼女ひとりでキズの手当ができる!

 さすが、ジョンソン&ジョンソン社のモーレツ社員ディクソン氏。自分がキッチンで包丁を持てば愛する妻がケガをしないですむ──という最も簡単な解決法には一顧だにせず、新商品の開発に打ち込んだのである。

 必要は発明の母だ。バンドエイドとは、妻への愛情を「母」に生まれ、ジェンダー・バイアス(ニセの性差)を「父」として生まれた近代の産物である。社会的に押し付けられた「男は仕事、女は家庭」──夫と妻の固定的性別役割分業は疑われもしなかった。

 1921年、最初に製品化されたのは、幅9cm×長さ54cmほどのロール状に巻かれたタイプ。その都度ハサミでカットして使うわずらわしさが災いしたのか、評判はあまりパッとせず、初年度の売上げはわずか3,000ドルだったと伝えられている。

 そこで考案されたのが、1枚ずつあらかじめカットされた現在のバンドエイド。100万枚単位で量産できるオートメーション装置を導入し、 quickly and easily! 片手でキズのお手当が! この簡便さが受け、今度は爆発的に大ヒット、J&J社のドル箱商品となった。このアイデアのおかげで、ディクソ ン氏は副社長に昇進したという。

 日本では1959年に発売され、いまや世界170カ国以上で販売されている。


3 現在、日本で販売されているBAND-AIDのひとつ=「25枚入り/肌色タイプ」。


 皮肉なのは、男社会の性別役割を「父」として誕生したこのバンドエイドが、男社会を解体しようというウィメンズ・リブの女性たちによって、思いもかけぬ方面で利用されたことだった。

 あの“ノーブラ運動”である。

 1970年代の東京・武蔵野市吉祥寺。私は「武蔵野火薬庫☆ぐゎらん堂」というライヴハウスを主宰していた。
 ある夜のこと、ジャニス・ジョプリンの歌声が大音量で響く店内で、ロック少女たちがいっせいにTシャツの裾をめくり上げた。

 「ゆみこさん、これ見て!」

 男性客たちはびっくり仰天。彼女たちの、むきだしの白い乳房の中央には2枚のバンドエイドが……。

 それは、Tシャツを着たノーブラの胸の、乳首の突起に集まる男たちの視線をかわす裏ワザ。ウィメンズ・リブの本場=アメリカの女性たちが編み出したアンチ・ジョセフィーヌ的バンドエイドの利用法だったのである。


4 BAND-AIDは、20世紀が生んだ「100のヒット商品」のひとつに数えられている。前世紀の世紀末(1998年)、ロンドンの気鋭のデザイナーと作家が出版した『20世紀の賢い道具たち』の中で紹介されているバンドエイドの利用法がコレ。

キャプションにはこうある。
〈Male joggers have discovered how to prevent their nipples from getting sore〉。

アメリカやヨーロッパでは1970年代後半〜80年代にジョギング・ブームが訪れたが、男性ジョガーたちが困ったのがランニング・シャツの下で擦 (こす)れて痛む乳首だった。ブラを付けて走るのもちょっとなあ……と、思いついたのが上の写真だ。彼らは、男の乳首を擦りむきキズから守るために、密か にバンドエイドを貼ってジョギングしていたのだ。

(ゆみこ・ながい・むらせ) 

collaged by Haruki Murase
参考/ジョンソン&ジョンソン社HP。「HIstory of Johnson & johnson」-18
写真/4:David Hillman & David Gibbs『Century Makers』
The Orion Publishing Group, London より。